養育費は、子どものために必要不可欠なものであり、養育費を出すことは親の義務でもあります。
しかし、離婚時には相手も自分も納得した金額であっても、養育費の支払いを何年も続けていると、月々の支払いが負担に感じられるようになることは、よくあることです。
その理由は、養育費の支払いの必要性を感じられなくなってしまう、というよりも、離婚時から時間が経てば取り巻く環境は変化するからだと思います。当事者の事情が、法的に認められるものなら養育費の減額が可能になります。
そのような事情の変化とはどのようなものかを、今回はご説明致します。
養育費が減額できるケース
養育費の支払いは義務です。子どもを産んだら、親はその子が経済的・社会的に自立できるようになるまでにかかる教育費や生活費、医療費などを支払う義務を負います。金額は厳密に決められているわけではありませんが、親と子は同じレベルの生活をさせるという義務を親は負っています。
しかし、養育費の支払いは長期にわたることが多いです。離婚をして時間が経てば、当事者の事情も変わってくるのは当然です。具体的に当事者の事情とは、養育費の支払っている側と受け取る側の収入や経済状況の変化を指します。
このような場合、支払義務がなくなることはありませんが、減額することが可能なケースがあります。それは次の通りです。
1.養育費を支払っている側の収入が減った
養育費を支払っている当事者が、病気やケガが原因で働けなくなったり、失業によって収入が減ったりするケースです。
2.養育費を受け取る側の収入が増えた
養育費を受け取る側が、働くようになったり、再婚したりして収入が増えるケースです。
3.養育費を支払う側が再婚した場合
養育費を支払う側が再婚するとにより、扶養家族が増えるケースです(子どもが増えることも考えられます)。
あくまでも、上記の例は減額が可能になることがあるケースなので、これらの条件をもとに養育費減額請求をしていくことになります。
また、仮に養育費を支払う側が"自己破産"をしたり、養育費を受け取る側が"再婚"したりしても、養育費の減額請求は認められることはあっても、子どもが自立するまで支払義務は残り続けます。
これまでの説明で、養育費の支払いは親の強い義務であることが分かって頂けたでしょうか。ですので、「子どもと面会させてもらえないから」「自分の養育費の支払いが相場より高いことが分かったから」というような理由で養育費の減額は認められないのです。
そもそも養育費の決め方とは?
では、実際に養育費はどのくらい支払うのが妥当なのでしょうか。実は、「養育費用算定表」という養育費の目安が家庭裁判所の裁判官によって発表されています。養育費の目安の基準になっているのは、「養育費を支払う側の年収」「親権者の年収」「子供の年齢」「子供の人数」です。
例えば、3歳になる子どもが1人だけで夫の年収が500万円、妻(親権者)が専業主婦であった場合、養育費の目安は5万円前後という計算になります。
3歳と5歳の子どもがいて、夫の年収は500万円、妻(親権者)が専業主婦であった場合、養育費の目安は9万円前後になります。
これに比べ、12歳と15歳の子どもがいて、夫の年収は400万円ですが、妻も働いていて年収が300万円ある場合には、養育費の目安は5万円前後にまで減ります。
さて、養育費を決める際には、養育費用算定表を参考にするほか、このような基準によって決められます。
1.子どもの成長
子どもが成長すれば、それだけ養育費や生活費としてお金が掛かっていきます。もちろん、私立に通うのか、公立に通うのかによって学費は大きく変わってきますが、養育費というのは子どもの成長につれて増えていく、という前提はおさえておきましょう。
ただし、養育費を子どもの成長に合わせて増額させていくのか、平均的な金額を一定額支払い続けるのかは、両者の合意があれば自由に決められます。
2.生活保持義務
養育費の金額を決めるとき、非常に重要になるのがこの"生活保持義務"です。生活保持義務とは、自分の生活と同程度の水準の生活を子どもにも与えなくてはならないという義務です。
たとえ自分の生活を犠牲にしても親が子どもを産んだ以上は負わなければならない、非常に重要性の高い義務で、離婚してもこの義務を負い続けることになります。
3.大学進学の有無
子どもが大学に進学するかしないかで、養育費は大きく変わります。大学に進学するとなれば、その学費だけでなく入学のために塾に通ったり、入学後も下宿させたりしなくてはならなくなるかもしれません。
以上のような基準のため、養育費の減額にはそれなりに説得力のある事情が必要なのです。
養育費の不払いのリスク
とはいえ、一定の金額を月々払いつづけるのは、決して軽い負担とはいえません。支払いが苦しくなってきても、「何となく言いづらい」という気持ちがして、不払いのままでいいやと思ってしまうかもしれません。
しかし、先ほどから述べてきたように、養育費を支払わないということは許されません。不払いのままにしておくと、家庭裁判所から履行勧告が行われ、そのまま無視を続ければ強制執行になります。
強制執行とは、養育費の支払い義務のある人から、地方裁判所が給与や預貯金、動産・不動産の差し押さえを行い、そこから養育費としてのお金に換えることを言います。
養育費の不払いを続けると、このような深刻な事態を招きかねません。もし、養育費の支払いに無理を感じるようになったのでしたら、「養育費減額請求」をし、きちんとした段取りを踏んで相手の合意を得る努力が必要です。
養育費減額に向けた手段
基本的に、養育費減額で重要になってくるのは相手の合意です。もし、話し合いで相手が合意をしてくれれば、特にそれ以上に面倒なことはありません。
しかし、相手にとっては自分たちの生活がかかっている、ということもあるので、よほど余裕が無い限り、養育費の減額を求められてもすぐに首を縦に振る人は現実的にはあまりいないでしょう。
そこで、養育費減額請求の流れを見ていきましょう。話し合いがまとまらなければ、次のステップに進む、という形になります。
1.直接交渉する
まずは、直接話し合いをするか電話をするといった手段で、減額できないかを相談しましょう。
もし、話し合いに応じてくれないようなら、減額希望の旨を内容証明郵便で送ります。内容証明郵便は、郵便局が送付した書類の内容を証明してくれるので、相手に減額の意思を見せたことの証拠になります。
ただし、何も事前の相談をしないでいきなり内容証明郵便を送ると、受け取った相手は失礼だと感じるかもしれません。
減額請求をする人は、相手に頭を下げて合意を得なければいけない立場で、相手の怒りを買ってしまっては仕方がありません。
少し時間はかかるかもしれませんが、平和的解決を目指すためにも、養育費の減額請求は慎重かつ丁寧に行いましょう。
2.調停の申立て
もし、話し合いや内容証明郵便で両者の合意が得られないようだったら、調停に移行することになります。
「養育費減額調停」では、家庭裁判所が間に入って両者の収入や家庭環境といった様々な事情を聞いて、問題解決のためのアドバイスをしたり新たな解決策を提示したりします。
手続きの流れとしては、養育費減額を請求する人が、原則として相手方の住所を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
申立てに際して必要になる費用は、子ども人数分の収入印紙(1200円)と、予納郵便切手(800~900円程度)です。
必要書類は、調停申立書とその写し1通、事情証明書、調停の進行照会書、子どもの戸籍謄本、申立人の収入に関する書類です。必要に応じて追加の資料や証明書の提出を求められる場合があります。
3.まとまらなければ審判
養育費減額調停でも両者の意見がまとまらない(=不成立になった)場合には、そこから審判手続きに移ります。
審判では、調停委員が調停で話し合われた事情を考慮して、減額をすべきかどうかを判断します。調停委員は、事実以外に両者の主張も聞いてくれますので、減額したい旨を調停でしっかりと主張できるようにしておきましょう。
審判が下された後は、審判書というものが作成されます。これは、調停調書や公正証書と同じく強制執行が可能になる効力を持つ書類になります。
養育費減額請求についてまとめ
養育費の減額は、基本的にはそう簡単にはいかない、ということが分かっていただけたかと思います。
理由として親の義務を挙げましたが、養育費の減額が難しい理由は、養育費を受け取っている人の気持ちになれば分かることだと思います。
今までもらっていた養育費が少なくしたいというお願いは、人間の心理としては受け入れがたいものです。
養育費を決めるときには、相場を意識した上で、「遠い将来も本当に無理なく払い続けることができるのか」を考えた上で話し合いましょう。
もし、離婚時点で養育費の支払いが難しいと感じている場合には、無理に支払いを認めず、支払いたくないという旨を主張した上で「子どもとの面会は諦める」「慰謝料を多く支払う」というように交換条件を提示する方が、今後自分にとってよい選択であったと感じることになるかもしれません。
養育費の支払いは、1回で終わるものではないので、養育費の決定は慎重にする必要がありますし、養育費の減額はハードルが高いため、法律の専門家である弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
弁護士は、養育費に関する相談に応じるだけでなく、ご依頼いただければ調停に出席して、調停委員に要点をしっかりと伝えることで、減額できる可能性があがります。
養育費問題は、一人で抱え込まず、是非弁護士へご相談ください。