離婚をしたことを「旧姓に戻る」などと表現することがあります。これは、離婚をすることで戸籍がもとに戻り、苗字が旧姓に戻ることに由来します。
このように、離婚をした場合に必ず必要になるのが、戸籍に関する手続きです。戸籍に関する手続きを経なければ、離婚が完了したとはいえません。
では、離婚後の戸籍手続きとは、具体的にどのようなことをしなければならないのでしょうか。また、自分や子どもの苗字はどうなるのでしょうか。
今回は、あまり重視されないけれど知っておきたい離婚後の戸籍についてご紹介します。
離婚後の姓と戸籍について
日本は「夫婦同姓」
日本の法律上の夫婦は、夫婦同姓となっています。それは、以下のような法律があるからです。
(夫婦の氏)
第750条
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
しかし離婚をするとなると、多くの場合、氏が変わりますね。それは離婚に際し、戸籍に変更が生じるからなのです。
戸籍に関する手続きとは
協議離婚の場合には、離婚届を役所に提出すれば自動的に戸籍に関する処理も終了します。ただし、これは後述するように妻又は夫が旧姓に戻る場合であり、婚姻後の姓を名乗る場合には別個手続きが必要です。
気をつけなければならないのが、調停離婚と裁判離婚の場合です。離婚調停が成立すると調停証書が、裁判離婚をすると判決書が作られます。しかし、このような書類が作られただけでは離婚が完了したとはいえません。戸籍上は夫婦のままだからです。
戸籍の上でも離婚を成立させるためには、調停成立、判決確定の日から10日以内に調停証書を持って役所に届け出る必要があります。なお、弁護士に調停を依頼した場合でも、多くの場合には戸籍の手続きを自分で行う必要があるため、注意しましょう。
離婚のときに姓をそのままにした人
では、離婚の届け出をすると戸籍や姓はどのようになるのでしょうか。まずは、離婚のときに姓をそのままにした人について見ていきましょう。
ここで、結婚に際し姓をそのままにした人(筆頭者)は、離婚後も現在の戸籍に残ります。もちろん苗字に変更はありません。
次に説明するように、離婚のときに姓を変えた人が戸籍から出ていくに過ぎないのです。
結婚のときに姓を変えた人
次に結婚のときに姓を変えた人について見ていきましょう。
結婚によって姓を変えた人は、結婚前の戸籍に戻ることになります。これを「復籍」といいます。戸籍が戻るのですから、それに伴い姓も旧姓に戻ります。
ここで、離婚のときに姓を変えた人は元の戸籍に戻るわけですが、いったん戸籍を出ているため、元の名前にバツ印がつけられています。そして、復籍をすると、この横に新しく名前が書かれるのです。このバツこそが「バツイチ」の由来となっています。
戸籍について
では、復籍によって戸籍はどのように変わるのでしょうか。
例えば、夫が筆頭者であり、妻が復籍した場合を考えてみましょう。まず、現在の戸籍(夫側の戸籍)には、残っている夫の身分事項に「離婚」と記載され、「夫」という配偶者区分が消されます。なお、身分事項欄には、調停離婚をした場合には「調停離婚」、裁判離婚をした場合には「裁判離婚」と記載されます。
一方、妻の名前があった部分も消され、ここには「除籍」と記載されます。
新しい戸籍を作らなければならない場合
例外的に、戸籍を戻す側の復籍ができず、新たに戸籍を作らなければならないケースがあります。このように新しい戸籍を作る場合には、離婚届とともに「分籍届」という届け出をする必要があります。
では、新たな戸籍を作らなければならないのは、どのような場合なのでしょうか。
実家の戸籍がなくなっている場合
新たに戸籍を作る必要があるケースとして、まず「除籍」が挙げられます。
除籍とは、婚姻前に入っていた戸籍が、すでに存在しない場合を指します。
例えば、家族が全員亡くなっていたり、他の家族が結婚などにより別の戸籍に移ってしまった場合などが挙げられます。
「婚氏続称の届け出」を行った場合
結婚によって姓を変えた人は、離婚によって旧姓に戻ります。しかし、仕事や子どもの学校の関係で、引き続き結婚後の姓を名乗り続けたい、という人もいますよね。
そこで、提出するのが「婚氏続称の届け出」です。これは結婚後の姓を名乗り続けるための届け出になります。もっとも、結婚後の姓を名乗るためには、この届出だけでなく、同時に新たな戸籍を作る必要もあります。もとの戸籍は姓が異なるため、戻ることができないためです。
なお、「婚氏続称の届け出」ができるのは、離婚の日から3か月以内とされています。期間が短いので注意しましょう。
新しい戸籍を作りたい場合
結婚によって姓を変えた人が、元の戸籍に戻らず、新しく戸籍を作りたいという場合にもこの方法を使用することができます。
親から虐待されていて元の戸籍に戻りたくない、ストーカーの被害にあっていて元の戸籍に戻りたくない、などの事情でこの制度を利用する人がいるようです。
戸籍に「調停離婚」と書かれることのデメリットはあるのか
先ほど述べた通り、調停や裁判によって離婚すると戸籍に「調停離婚」「裁判離婚」と記載されます。そのため、「戸籍にこのような情報が残ることで何かデメリットがあるのでは?」と思われる方がいるようです。
しかし、先に結論を言ってしまえば、戸籍に離婚方法が記載されたからと言って、特にデメリットはありません。あるとすれば、再婚の際になぜ離婚調停(離婚裁判)に至ったのか、相手から問われる程度でしょう。
しかし、どうしても「戸籍に『調停離婚』『裁判離婚』という記載が残るのはいやだ」という方もいらっしゃるでしょう。
その場合には、なんとしてでも協議離婚によって離婚をするしか方法がありません。この点、調停は調書に記載されるまで、判決は判決書きが作成されるまでは効力を持ちません。そこで、調停や裁判を途中で打ち切り、協議に切り替えるのです。
しかし、この方法にはひとつ大きな落とし穴があります。それは、相手が離婚届にサインをしてくれないと、離婚をすることができないという点です。
調停や裁判の場では離婚に同意していたのに、いざこれを取り下げてみたら、離婚届にサインしてくれないということも想定されます。先にサインをもらい、離婚が確定してから調停や裁判を取り下げるようにしましょう。
離婚後に姓を変えたい場合
「離婚時には想定していなかった不利益があり、結婚後の姓に戻したい」「結婚後の姓を使用しているけれど、旧姓に戻りたい」このような場合どうしたら良いのでしょうか。
先ほども述べた通り、離婚後3か月以内であれば「婚氏続称の届け出」を提出することによって、引き続き結婚後の姓を名乗ることができます。
問題は3か月を過ぎてしまった場合です。この点、戸籍法は「氏の変更許可の申立て」(戸籍法107条)という制度を用意しています。これは、家庭裁判所に対し「姓を変更してください」と申し立てるものになります。
ただし、「氏の変更許可の申立て」は「やむを得ない事由」がなければ認められません。単に気に入らないというだけでは足りず、事実上の不利益がないといけないのです。そのため、このような申し立てが認められるためには入念な準備が必要になるのです。
子どもの姓と戸籍について
新しい戸籍が必要なことも
子どもの戸籍は、手続きをしない限り元の戸籍に入っています。つまり、結婚によって姓を変えない人の戸籍に入り、姓もそのままになっているのです。
そのため、例えば旧姓に戻る母親が子どもの親権者となり、子どもも姓を変える(母親の旧姓にする)場合には、戸籍を移す手続きが必要になります。
この場合には、まず裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てましょう(民法791条)。これは子どもの名前を旧姓と同じ姓に変更するための手続きになります。
次に新戸籍を作ります。ここでひとつ疑問がわきますね。それは、「子どもも復籍すればいいのでは?」ということです。しかし、子どもは親と一緒に復籍することができないのです。
実は、戸籍法上、同じ戸籍には2代(親子)までしか入ることができないとされています。つまり、祖母・母・子がいた場合、祖母のもとに母は復籍できても、子は入ることができないのです。
そこで、親を筆頭者とし、親子の新しい戸籍を作る必要があります。万が一この手続きを行わないと、親権者と子どもの姓が違う、という事態が生じますので、注意しましょう。
子の氏の変更許可の方法
では、この氏の変更許可はどのように行うのでしょうか。
まず気を付ける必要があるのが、申立人が子ども自身であるということです。もちろん、小さい子どもの場合には手続きができませんから、子どもが15歳未満のときはその法定代理人が子を代理することになります。
必要な書類は、裁判所ホームページから取得できる申立書、申立人(子)の戸籍謄本(全部事項証明書)、父・母の戸籍謄本(全部事項証明書)になります。これを用意し、裁判所に提出します。
かかる費用としては、収入印紙800円分(子1人につき)と連絡用の郵便切手代だけです。
裁判のように弁論が行われることもありませんから、自分で申し立てをすることが可能です。
まとめ―戸籍は最後の離婚手続き
離婚に至るまで苦労される方が多いでしょうが、戸籍に関する届け出は、最後の離婚手続きになります。これが完了してはじめて「離婚した」ということができるのです。
特に子どもに関しては、親権や監護権との関係で手続きが必要なケースが多くなります。必要な場合には弁護士に依頼し、のちのち紛争にならないような取り決めをしておくことをおすすめします。
また、離婚後の姓に関しては、後々変更することは原則としてできず、これをしようとするとかなりの時間・労力を割くことになります。そのため、届け出を出すまでに姓をどうするのかしっかり考えておきましょう。
(画像はイメージです)