生返事ばかりで会話をしてくれない、わがままな気まぐれに振り回される、など、結婚生活をしていると相手の嫌な面も見えてくるようになります。初めは自分が折れればいい、と思って我慢していたけれど、とうとう相手に合わせることが嫌になった…これは、一言でいうと配偶者との「性格の不一致」に悩んでいる状態です。受け入れられないことが積み重なって、もう一緒に暮らしていきたくない!と、別居や離婚を考える方も少なくないのではないでしょうか。
性格の不一致で離婚で離婚は可能?
離婚について当事者間で合意が成立し、離婚届を提出すれば、いかなる理由によるものであっても離婚することができます。これを協議離婚といいます。したがって、まずは離婚について合意を得られるよう、配偶者と話し合いをしましょう。
当事者の間だけで話し合いをしても、相手が離婚に応じない場合には、家庭裁判所での調停を利用することができます。調停では、調停委員という第三者が存在しますので、お互いより冷静に話し合うことができるでしょう。
調停によっても配偶者との間で離婚の合意が成立しなかった場合は、裁判所によって強制的に離婚を認めてもらうという手続きに進むことができます。
裁判上の離婚が認められるためには、民法第770条に定められている法定離婚原因の存在が必要です。法定離婚原因には、1.配偶者の不貞行為、2.配偶者による悪意の遺棄、3.配偶者の生死が3年以上不明、4.配偶者の回復の見込みのない極度の精神病、5.その他婚姻の継続が困難な重大な事由の5つがあり、このうちのいずれかに当てはまる必要があります。
性格の不一致によって離婚したい、という場合については、「5.その他婚姻の継続が困難な重大な事由」に当たるかが問題となります。具体的な状況をもとに、婚姻関係が破たんしており修復が困難な状況になっているといえる客観的な事情を主張しなければなりません。原則的には、性格の不一致そのものだけでは、婚姻の継続が困難な重大な事由があるとはいえません。
過去の裁判例では、いわゆる会社人間で家庭を顧みず、妻の感情や望みも受け止めず、妻が趣味を楽しむことも許さないという夫に対して妻が離婚を請求した事例があります。このケースでは、夫に思いやりや心遣いが欠けていたことは否定できないものの、婚姻関係が破たんしているとまではいえず、和合のための努力を試みるべきとして離婚は認められませんでした(東京高等裁判所平成13年1月18日)。
ただし、性格の不一致がきっかけとなり、婚姻生活が破たんしている状況にある場合には、「5.その他婚姻の継続が困難な重大な事由」にあたると判断され得ます。婚姻生活が破たんしていることを立証するための客観的な事実として、主に別居の有無・期間が挙げられます。どの程度の期間の別居であれば婚姻生活が破たんしていると認められるかは、具体的な基準が決まっていません。夫婦双方の意思、ケンカの有無・程度、性的関係の有無、未成年の子どもの有無・関係といった事情と共に総合的に判断されます。
性格の不一致で慰謝料はもらえる?
離婚するとなれば慰謝料は請求できるのか気になるところですね。性格の不一致を理由に離婚する場合、相手に慰謝料を請求できるでしょうか。
誤解されている方も多いのですが、離婚時には必ず慰謝料が発生するわけではありません。慰謝料は、相手方の有責性のある言動により、精神的な損害を受けた場合に請求することができます。離婚時の慰謝料が認められる典型例は、不倫・浮気や身体的・精神的な暴力行為、生活費を渡さない、セックスレス等の場合です。
単なる性格の不一致の場合は、どちらかが一方的に悪いとは言い切れない部分がありますので、一般的には慰謝料を請求することは難しいです。ただし、相手方の言動が悪質なものに発展している場合など、個別的な状況によっては、慰謝料を請求することが可能です。
例えば、価値観が違うことについて暴言を吐かれて責められるなど、モラルハラスメントにまで至っているような場合には、相手方の行為は不法行為と認定され、慰謝料請求が認められます。
離婚しない場合、どう対処したら良い?
子どもの存在等様々な事情を考慮して、できれば離婚しない方いいのではないか、という気持ちがある場合や、現在の状況では婚姻関係が破綻してるとまではいいづらく離婚が認められなさそうな場合には、いったん離婚することは棚に上げて、夫婦関係を改善するように行動してみてはいかがでしょうか。
例えば、夫婦で一緒に楽しめるものを持つ、旅行に行くなど、夫婦で同じ体験をして感情を分かち合うと、新鮮な気持ちになり、夫婦の絆も強まるはずです。
それでも一緒に暮らしていくのは我慢の限界、という場合は、一度別居をしてみることも一つの方法です。環境が変わることで、お互いの考えに変化があるかもしれませんし、距離を置くことで今後の結婚生活についてより冷静に考えられるでしょう。また、後述するように、別居期間が長い方が裁判で離婚が認められやすくなりますので、将来的に離婚裁判を起こすことになった場合に有利になります。
そして、別居を行う際には、それが離婚を前提にしたものであるかどうかにかかわらず、約束事を文書で残しておくことをお勧めします。文書内には、別居の原因とお互いが別居に合意していることを記載しておくと良いでしょう。夫婦には同居義務がありますので、その義務を一方的に破っているわけではないことを証拠として残しておく必要があるためです。
さらに、別居中の生活費・養育費・教育費等の婚姻費用についての分担方法も記載しましょう。別居した後でも、夫婦にはお互いの生活レベルが同等になるよう助け合う義務(生活保持義務)がありますので、収入に差がある場合、収入が高い方に対して、婚姻費用を請求できます。
また、未成年の子どもがいる場合は、どちらが養育・監護を行うか、他方の親との面接の頻度等について定めておくと、後々のトラブルを予防しやすくなります。
別居期間が長いと離婚が認められやすくなります
別居期間が長期間に及んでいる場合、先に述べた法定離婚原因の「5.その他婚姻の継続が困難な重大な事由」に該当するとされる可能性が高くなります。
別居期間は婚姻関係が破たんしていることを示す客観的でわかりやすい証拠であり、別居期間が長いほど離婚が認められやすくなるのですが、どれ位の期間が必要なのかについては法律上の基準はありません。離婚請求が認められるかは、別居期間のほか、様々な要素を考慮に入れて判断されるので、個別の事情によって離婚が認められる別居期間は異なります。
実務上、別居期間が3年以上経過していると、「5.その他婚姻の継続が困難な重大な事由」にあたると判断されることが多いですが、5年以上経過していれば、長期間と認定されやすいでしょう。
別居期間がもっと短い場合でも、事情によっては離婚が認められることもあります。過去の裁判例では、別居期間が1年余であっても、それまでの事情を考慮して、婚姻関係が修復困難な状態にあると認定し、離婚を認めたものがあります(大阪高等裁判所平成21年5月26日判決)。このケースでは、妻が先妻の位牌を処分したり、夫のアルバムを焼却したりしていたこと、妻にはこれらの行為により夫が受けた精神的苦痛を理解しようとする姿勢がなく、今後の信頼関係回復を真摯に考えていないこと等から、婚姻関係が破たんしており修復困難であるとし、夫から妻への離婚請求が認められました。
他方、有責配偶者(浮気など、婚姻が破たんする原因について責任のある方の配偶者)からの離婚請求の場合は、10年位が1つの目安として考えられています。
離婚を考えるきっかけが「性格の不一致」と答える方は多いですが、そもそも結婚生活では異なる生活環境で生まれ育った者が一緒に暮らすことになりますので、性格が一致することの方が稀だといえます。後悔しないために、一度は関係の修復にトライしたり、周りに相談してみるなど、じっくり冷静に考えてみてくださいね。
そして、やはり一緒に暮らしていくのは耐えられない、と思った場合には別居や離婚を検討してみてください。別居や離婚には手続や自立の準備など、労力がかかって大変な面もありますが、周りの方や弁護士など専門家の助けを借りて、乗り越えていきましょう。
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