遺産相続、と聞いてどのようなイメージを持ちますか?残された遺産をめぐって兄弟が取り合いをする、というのは昔からテレビドラマや映画の中だけの話ではありません。
5,60歳くらいになると、親と辛い別れをしなければならない可能性が高くなります。遺産相続のことを、親が元気なうちから話合うことは不謹慎と感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、後々揉めてしまうことを考えると早めからの対策が大切です。
今回は、トラブルになる前に知っておきたい遺産相続についてお話しします。
均分相続の時代
実は、遺産相続も時代の流れで変化してきました。ひと昔前は、被相続人の戸主が亡くなれば長男が家督相続人となり、1人で全ての財産を相続するという方法が主流でした。しかし今では、均分相続といい法律に基づいて兄弟で財産を分配するという方法が一般にとられています。
このコラムでは、この均分相続の仕組みについて見ていくことにします。
相続財産となり得るものとは?
では、実際に相続財産になり得るものはどんなものなのでしょうか。代表的なものは、現金・預貯金・土地や建物・有価証券などがあります。他にも、家具、自動車、ゴルフ会員権や特許権なども相続財産含まれます。
ただ、例えば土地や建物など「不動産」が相続財産なのは分かっても、どうやって遺産分割をするのかは問題です。お金のように簡単に分割できないものに関しては、まず相続分が確定するまでは相続人の間で共有されます。
もし不動産を売却したり賃貸にして収入を得た場合には、相続人のそれぞれの持分の割合を元に配分されるのです。売却して相続することを換価分割、賃貸にするなど不動産の所有権を共有することを現物分割と言いますが、相続人の中で「自分ひとりでこの土地(建物)を所有したい」と言い出す人が居るかも知れません。
そこで、遺産分割の方法として代償分割という方法で所有権を得ることができます。代償分割は、他の相続人にお金を支払って自分の所有物とします。実は遺産分割でトラブルになったときには、代償分割で解決するケースが穏便です。
一方、借金も相続財産になるということも頭に入れておかなければなりません。財産とはプラスの財産だけではないということです。
もし、借金よりもプラスの財産が多ければ借金を返済してから相続すればよいのですが、借金のほうが多かった場合は考えものです。自分の貯金から借金を返済しなければいけないのでしょうか?
実は相続放棄という方法があります。家庭裁判所に必要書類をもって届出をして認可されれば、その人は"相続人ではなかった"ということにすることができ、ほかの財産も相続できない代わりに借金を相続しなくても済むことになります。
しかし、この手続は被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に行われる必要があるため、「借金はあるのか?」の調査をはじめ、スピードをもって対応する必要があるということを覚えていなくてはなりません。
遺産分配の決定方法について説明
さて気になるのは、遺産を貰える人はどこまでなのかということです。
ここでは複雑なケースは取り扱いませんが、遺産相続できる人は民法で"法定相続人"として決められています。法定相続人は、被相続人の配偶者(夫・妻)、子供(子に相続権がないと孫)、父母、兄弟姉妹です。
相続人の組み合わせは、以下のケースに分けられます。その場合、相続の割合はこうなります。
・配偶者と子供配偶者:2分の1、子供:2分の1
・配偶者と父母配偶者:3分の2、父母:3分の1
・配偶者と兄弟姉妹配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1
子供、父母、兄弟姉妹が複数人いる場合、平等に分けます。長男だから配分が多いということは関係ありません。
また、基本的に法定相続の決まりによって分配されますが、①相続人全員が納得する場合、②遺言で遺産の分配を指定してある場合は、この限りではありません。
どこまで効力が?遺言書
遺言書は、遺産の相続を決定する有力な手段となります。遺言書によって、親族トラブルを回避することができますが、遺言書にもできないことがあります。
遺言には、相続人の中に(虐待、重大な侮辱、著しい非行などの理由で)遺産を渡したくない人がいれば相続権を消失させたり、相続の割合を任意に指定するなどといった効力があります。
しかし、例えば「被相続者の知人や愛人といった人に全ての遺産を相続させる」ということから、一定の範囲内の親族をまもる法律があります。対象となる親族は、配偶者、子供、父母で、遺留分権者と呼びます。兄弟姉妹は遺留分権者に含まれません。
財産分配の権利が保障されているのは、法定相続分に遺留分の割合を掛け合わせたものが遺留分の金額になります。
遺留分は、配偶者や子どもは2分の1で父母は3分の1です。例えば、配偶者と子で相続する場合、子の遺留分は法定相続分の4分の1に遺留分の割合である2分の1を掛けた、8分の1の金額が遺留分になります。
こうして、相続人が異議を唱えることを遺留分減殺請求と言いますが、これを行わなければ遺言通りの相続方法になってしまうので、この知識は重要です。
余談ですが、遺言書は見つけても、絶対に自分で開封してはいけません。中身を勝手に確認することは、法律で禁止されており、罰金を科せられる可能性があります。ここでは説明しませんが、遺言書を見つけたら「検認」という手続をとりましょう。
さいごに
法定相続の割合は決まっているが、現に丸く収まっていないのが遺産相続です。よくあるのは、「俺は親父の介護をしていたのに、弟のお前は全く顔も出さなかったじゃないか!」と遺産を平等に分割することに抵抗を示すケースです。
一番理想なのは、遺書に残して相続人全員が納得できる形にしておくことですが、それでも遺産相続は極めて法律が複雑かつ私たち人間の欲望が膨らむ問題のため、解決の糸口が自分たちでは見つけられなくなってしまいがちです。
遺産相続で困ったときは、弁護士へご相談を。遺留分を取り戻せたり、書類作成のお手伝いが可能です。親族の間に深い亀裂が走る前に、ご検討ください。