夫婦関係をこれ以上続けるのは厳しいと思ったとき、最終的に選ぶのが「離婚」という選択肢。しかし、財産分与や親権で揉めてしまったり、そもそも相手が離婚に同意してくれなかったりと、離婚が難航することもしばしばあります。
当事者間の話し合いだけでうまく話がまとまらないとき、離婚調停という制度が有効です。これは裁判官立ち会いのもと、話し合いによって離婚を進める手続きになります。
では、離婚調停を利用する場合、どのように手続きを進めていけばよいのでしょうか。また調停で失敗しない方法はあるのでしょうか。今回は、離婚調停の基礎知識とその手続きについてご紹介してきます。
離婚調停とは
調停とは
離婚調停とは、家庭裁判所に間に入ってもら
い、離婚にむけた話し合いをする手続きのことをいいます。日本では「調停前置主義」をとっていますので、離婚裁判をするつもりの人も、まずは調停を起こす必要があります。
ここで注意してほしいのは、離婚調停は裁判と異なるということです。確かに、裁判官が話し合いの場に立ち合いますが、裁判官が最終的なジャッジを下すわけではありません。あくまで当事者の話し合いのもと、最終的な合意にたどり着くことを目標にしています。
また、調停は裁判と異なり、法律を使って「正しい、正しくない」ということを判断するわけではありません。そのため、法律に縛られずに柔軟な解決策を見出すことが可能です。
調停の進め方
調停を始めるためには、離婚調停申込書を裁判所に提出する必要があります。申立書は裁判所ホームページでダウンロードできますので、必要事項を記入して管轄裁判所に提出しましょう。
離婚調停が提起されると、相手に呼び出し状が届きます。場合によっては、「呼び出し状ではじめて離婚調停を起こされたことを知った」ということもあるかもしれません。
さて、調停当日。まずは書記官室で受付を済ませ、控室に行きます。控室はお互いに別々の部屋ですので、相手に会いたくないという場合でも安心です。
1回目の調停では、申立人と相手方が呼ばれ、裁判所から手続きについての説明を受けます。その後は、申立人と相手方が交互に調停室に入ることになります。調停1回にかかる時間は、30分ずつ話をし、2回交代する、すなわち計2時間が通常です。
調停では、調停員がお互いの言い分を聞き、時には一方を説得することもあります。そのため、後ほどご説明しますが、調停員を味方につけることが重要になってきます。
話し合いが十分になされたと判断されると、調停は終了します。お互いが合意に達すれば調停成立、合意できなければ調停不成立です。
調停がうまくいかない場合には、審判、もしくは裁判へと移行します。もっとも、実際に裁判離婚で判決まで至るケースはほとんどありません。離婚訴訟の申立から判決までの期間は1年以上かかることも少なくないので、多くの場合は途中で和解に応じてしまうというのが現状なのです。
調停委員の中には民間人もいる
調停委員がどんな人なのかをよく知りましょう。実は、調停委員は全員が裁判官というわけではありません。ここで、民事調停委員及び家事調停委員規則を見てみましょう。
(任命)
第一条 民事調停委員及び家事調停委員は、弁護士となる資格を有する者、民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満のものの中から、最高裁判所が任命する。
この条文によれば、調停員になり得る人として、大学教授、医師、建築家、学校の先生などが挙げられます。つまり、調停員は必ずしも法律の専門家ではないということです。
費用はどのくらい?
気になるのは、調停にかかる費用ですね。ここでは、自分で調停を起こした場合と弁護士に頼んだ場合を比較してみました。
自分で離婚調停を起こすといくらかかる?
まず、弁護士をつけず、本人が離婚調停を起こす場合にかかる費用をみてみましょう。
・申立手数料1200円
離婚調停の申立手数料として、収入印紙代1200円が必要になります。
・郵便予納(切手代)約800円
裁判所に約800円分の切手を預ける必要があります。裁判所ごとに金額が変わりますので、必ず裁判所ホームページで確認しましょう。
・その他費用
戸籍謄本(450円)、住民票(200~400円)、所得証明書、交通費、コピー代などがかかります。
弁護士に頼む場合
弁護士に依頼した場合の相場についても見てみましょう。以下はあくまで目安であり、実際にかかる金額はこれと異なりますので、必ず弁護士事務所に確認してください。
・相談料
30分5000円の事務所が多いですが、最近では初回無料としている事務所も増えています。
・着手金
着手金の相場は20~40万円です。結果がともわなかったとしても、返還されることはありませんので注意しましょう。
・日当
日当とは、調停に同席してもらう費用のことをいい、1日当たり3万円+交通費がかかります。
・報酬金
依頼者の望んだ結果が得られた場合に支払う費用のことを報酬金といいます。成功報酬は弁護士事務所によって異なります。
離婚調停をするメリット
離婚をするには協議離婚、裁判離婚などさまざまな方法がありますね。では、離婚調停をするメリットはどこにあるのでしょうか。
①話し合いがスムーズに進む
離婚調停はあくまで話し合いの場です。そのため、「わざわざ裁判所をはさまなくても自分たちで話し合えば良い」と思われるかもしれません。
しかし、離婚の場合には、感情的になってうまく話し合いが進まないことがあります。相手が不当な条件を突き付けてくることもあります。
そういったときに、第三者を挟むことで建設的な話し合いをすることが可能になります。とくに調停委員は離婚の仲裁のプロですから、二人だけではうまくいかなかった話し合いもスムーズに進むことが期待できます。
②強制執行ができる
慰謝料や養育費の支払いを相手が拒んでいるとき、もっとも確実に取り立てる方法は強制執行をすることです。この強制執行は相手の財産を取り上げるという強い効力を持っているものですから、むやみに認めることはできません。強制執行をする場合には判決などの「債務名義」が必要になります。
この点、調停成立の際に作られる調停証書には、債務名義としての効力があります。そのため、調停で離婚しておくと、万が一養育費や慰謝料が支払われなかったときに強制執行をすることが可能なのです。
③柔軟な解決方法が可能
先ほども述べましたが、調停は必ずしも法規範に縛られるものではありません。そのため、柔軟な解決方法が可能です。
極端な例ですが、浮気をした父親に親権を譲ったり、子どもとの面会について自由に設定することもできます。
離婚調停で失敗しないために
では、離婚調停で失敗しないためにはどのような点に気をつければよいのでしょうか。
調停員との信頼関係を築くことが大事
離婚調停で失敗しないためには、調停員との間に信頼関係を築くことが大切です。自分の言い分を信じてもらえれば、相手を説得してもらえますし、調停員が自分の味方になってくれます。
調停員の印象をアップさせるには
調停員との信頼関係を築くためには、まず見た目から入りましょう。やはり見た目が人に与える影響は大きいためです。
具体的には、清潔な身なりを心がけてください。できればスーツやオフィスカジュアルが良いでしょう。まずは調停員に「誠実な人だな」と思ってもらうことができれば合格です。
また、発言は簡潔に行うようにしましょう。つい感情的になってだらだらと話す人がいますが、これは調停においてマイナスポイントになります。調停員に言いたいことが伝わらないためです。要点を抑えて話した方が、調停員には好感触になります。
さらに、調停員には誠実に対応するようにしましょう。自分に不利なことに対し、嘘をつく人がいますが、後々嘘がばれたときに取り返しがつかないことになります。調停員の信用を失ってしまうからです。
裁判のポイントは「証拠」
調停で失敗しないためには、証拠を集めておきましょう。客観的な証拠があると、調停員も信用しやすいからです。
たとえば、DVの有用な証拠として、ケガの診断書や暴言の録音などが挙げられます。また日々の言動を記した日記や近所の人の証言も証拠として価値を持ちます。
浮気であれば、浮気相手とのメールや写真を用意しておきましょう。期間が長ければ長いほど悪質だと判断されるため、証拠の量は多い方が好ましいです。
また、親権を取りたい場合には、相手が親権を持つのにふさわしくないという証拠を用意しましょう。例えば、相手が料理をしないことを示す証拠として外食のレシート、ネグレクトの証言、暴力の跡を撮った写真などが有用でしょう。
陳述書はしっかり書く
申し立てに際し、陳述書を出すことは必須ではありません。しかし、調停を申し立てる際には陳述書も提出することが重要になってきます。
なぜ提出が義務づけられていない陳述書を提出すべきかというと、調停員に自分がなぜ離婚したいかを、事前にアピールするためです。現在の申立書は詳細な離婚理由を記載する欄がなく、調停期日も時間が限られているため、言いたいことは陳述書にまとめておくようにしましょう。
弁護士をつける
やはり、調停を有利に進めるためには弁護士をつけるのが一番です。
弁護士をつけるメリットは、煩雑な書類作成手続きを代行してくれることに加え、交渉が有利に進むという点も上げられます。弁護士は交渉のプロですから、調停員に対しても論理的に対応をしてくれます。
また弁護士は法律の専門家ですから、訴訟も見据えた対応が可能です。調停成立が不安な場合も、弁護士に頼んでおけば安心ですね。
まとめ―有利に進めるなら弁護士をつける
離婚調停は裁判所を利用する、便利な離婚手続きです。もちろん個人で離婚調停の手続きを進めることもできるので、「費用を抑えたい」という人にはぴったりだといえます。
もっとも、万が一離婚調停に失敗すると裁判が待っており、ここでは調停とは別の法的観点からの対応を強いられます。場合によっては、裁判では絶対に勝てないケースも存在します。
確実に離婚したい、有利な条件で離婚したいという場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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