離婚を協議する際、住宅ローンが残っている際には「今後不動産と住宅ローンをどうしていくか」という話し合いは、深刻な問題になるでしょう。
住宅ローンは夫婦間の問題だけでは収まりません。きちんとした知識を持って、リスクヘッジをしながら話し合いを進めなくてはなりません。
今回は、知っておきたい住宅ローンの基礎知識と複雑な住宅ローンの離婚後の選択肢を見て参りたいと思います。
住宅ローンは財産分与の対象になるの?
2人で築き上げてきた預金や家具、保険の掛け金などの財産はそれぞれの貢献度に応じて分配する必要があります。この作業を「財産分与」といいます。ただし、住宅ローンや2人で作った借金のようなマイナスの財産も同じく財産分与の対象になります。
夫婦で築いた貯金を分けるのは夫婦が納得すればそれでよいのですが、夫婦間で「住宅ローンは妻の方に引き渡す」という合意がなされたとしても、うまくいかないケースがほとんどです。
なぜかというと、住宅ローンは銀行とローン名義人との間で交わされた契約であって、夫婦間で納得のゆく結論が出せたとしても、銀行の承認が得られなければ勝手に「名義変更」などの手続きはできないからです。
次に、何かと難しい「住宅ローンの離婚後の対処法」について、いくつかの選択肢を見て参ります。
まずは住宅とローンの情報を確認するところから
住宅(ローン)の財産分与をする前に、まずは事実確認が必要です。知るべき事は2つあります。1つ目は住宅ローンの契約内容、2つ目はいま住んでいる住宅の価値です。
まず、住宅ローンの契約内容について説明しましょう。まず、土地や建物の名義が誰なのかをはっきりさせる必要があります。その不動産の債務者・抵当権はどのように設定されているのでしょうか。これは、不動産の登記簿謄本を見ることで分かります。
今では、他の管轄の登記簿もどの法務局で見ることができるようになっているので、お近くの法務局で登記簿謄本を取得して下さい。(手数料は1通600円です)
急ぎでない場合、1週間ほどで郵送してもらうことも可能です。
不動産の債務者はどのように設定されていたでしょうか。主に家計が夫の収入によって支えられていた場合、夫が"主債務者"になっていて妻は連帯保証人か、保証協会等の利用によって債務負担がなくなっていることが多いでしょう。
これと異なるケースとしては、特に共働き家庭で多いですが、夫と妻で連帯債務者になっている場合です。連帯債務者は債務者と同等の責任を連帯して負っているので、返済が難しくなったときは、直ちに連帯債務者に返還請求が来る可能性があります。
また、住宅ローンを組むときに、団体信用生命保険に加入しているかも確認を行いましょう。団体信用生命保険とは、加入者が返済途中で死亡・高度障害を負うなどして返済が困難になった場合に、生命保険会社が住宅ローンの残債を支払うという仕組みの保険です。
次に、住宅の価値です。住宅ローンの残額がどのくらいであるのかを把握したら、現時点で住まいの不動産価格を査定しましょう。ローン残額が不動産価値より大きいことを「オーバーローン」、逆にローン残額が不動産価値よりも小さいことを「アンダーローン」といいます。アンダーローンだった場合とオーバーローンだった場合、それぞれのケースについて住宅ローンをどのように分配すればよいのかを見ていきましょう。
アンダーローンの場合は売却がおすすめ
アンダーローンの場合、住宅を売ってしまえば利益になるので、不動産売却によって生じた利益を2人で分配する方が丸く収まるため、この方法が一番メジャーです。売却を考えないのであれば、「ローンの負担はどうするか」「家をもらう方、もらわない方の財産分与をどうやって平等にするか」など、様々な問題が生じます。
オーバーローンの場合は3つのパターン
オーバーローンの場合、住宅を売ってもローンが残ってしまうので、普通は売却できません。完済の見通しが立っていて、ローン残額を支払う余裕がある場合には、2人で相談して完済してしまってもよいのです。
離婚原因が不倫といった慰謝料を伴うもので、ローン完済の見通しが全く立たない場合には、最悪自己破産をしてローン返済責任を免れる方法があります。ただし、そうならないために弁護士に相談をしましょう。
上記のケースでない場合には、ローンが完済するまで夫婦の両方もしくは片方が支払い続けることになります。そのため完済するまでの間、「誰が家に住み続けて」「誰がどのようにローンを支払っていくか」という複雑な話になっていきます。
1.不動産と住宅ローン名義を夫のままで夫が住み続けるケース
債務者が夫で、その夫が今まで通り住み続ける場合、支払いがスムーズに行われていれば銀行とのトラブルは免れます。
ただし、妻が連帯保証人や連帯債務者になっていた場合、離婚したからといってその責任を免れることにはならないので、注意が必要です。
住宅ローンの連帯保証人や連帯債務者から債務を免れるためには銀行と交渉しなければなりませんが、一般的に離婚を原因としても銀行からの了承を得るのは、ハードルが高いことです。条件として、代わりの保証人を立てなくてはいけなかったり、信用保証協会の利用やローンの一部返済を要求されることがあります。
妻が連帯保証人や連帯債務者のまま離婚を余儀なくされた場合、夫が住宅ローンを滞納し妻が肩代わりをしなくてはならなくなった場合、支払った分を後から夫に請求できるように、公正証書に明記しておく必要があります。
2.不動産と住宅ローン名義を妻に変更し妻が住み続けるケース
債務者を夫から妻に変更するパターンです。しかし、この手段は妻にローン返済のための十分な安定した収入が必要になります。現実には、相当高いハードルでしょう。
銀行に相談して、債務者の名義変更をする以外の方法を紹介します。
1つ目は、妻が住宅ローンを借り換える方法です。妻の方に、借り換えの融資審査が通る程度の収入がある場合、借り換え先の銀行から融資を受けて、完全に住宅ローンの返済を終えた後、所有名義人を妻に変えます。この登記には、必ず抵当権設定登記が必要になるため、司法書士に相談が必要になります。
2つ目は、住宅ローンの完済後に不動産の名義変更を行うという方法です。完済まで、数十年といった時間が必要な場合、所有者の夫が名義変更に応じてくれなかったり、夫に不動産を勝手に売却される可能性もないとは言い切れません。
どちらがローンを負担するのかということと、「住宅ローンが完済した後は妻の名義に変更することに同意する」という旨を、公正証書としてきちんと作成する必要があります。
3.不動産と住宅ローン名義は夫のままローンも夫が支払うが妻が住み続けるケース
未成年の子どもがいて離婚後養育費を月々支払う代わりに夫に住宅ローンを支払ってもらうなどの理由で、家を出た夫がそのままその家のローンを負担するケースです。
この手段は少しリスキーとも言えるでしょう。というのも、住宅ローンを組む条件として債務者がその家に住んでいることが前提であることが往々にしてあるため、銀行から十分な理解を得られない場合、住宅ローンの一括返済を要求してくる場合があります。
また、仮に銀行とトラブルにならなかったとしても、妻が連帯保証人になっていればローンの残額を支払う責任は残りますし、夫がローンを支払えなくなった場合、差し押さえや住まいが競売物件になってしまうという可能性もあります。
ただでさえ、自分の住まない家のローンを支払い続け、別に自分の住まいも確保しておくことは大きな負担になります。夫に住宅ローンの滞りが発生した場合にどうするか、予め公正証書に記して残しておくことが望ましいです。
まとめ
住宅ローン契約を締結した後に離婚をするのは、とても面倒だということがお分かりいただけましたでしょうか。
所有者や債務者の名義変更をするのは、多くの条件があり、ハードルもそれなりに高いものとなっております。銀行などの金融機関は、債務者に対して返済能力があるかを調査してから住宅ローンの審査結果をだします。
その債務者や、担保物としての土地や建物の所有者を簡単には変更できないというのは、融資する立場になって考えてみると、納得できる話かもしれません。
そこで、住宅ローンを取り巻く現状にはどこかで妥協をしなければいけないということになります。しかし、離婚後しばらく時を経ると、2人の間の約束はだんだんと曖昧になってきて、義務感も薄れてきます。
離婚をしてからトラブルが発生したり、自分の住む家をある日突然奪われないようにするためには、きちんとした対策をする必要があります。
その対策というのは、住宅ローン支払いに関する然るべき内容を離婚協議書に明記して、公正証書化するということです。その公正証書に不備があっては、いくら法的効力があってもただの紙と同然です。
双方の納得のゆく条件で公正証書を作成するために、専門家へご相談いただくことを強くおすすめ致します。